よく眠れないと悩む人がますます増えています。
しかし、そもそも「よい眠り」とはどういうものでしょうか。
「よい眠り」
それは、「眠くなって眠る」ときの眠りです。
お酒や睡眠導入剤など使用せず、夜になって自然な眠気に誘われて眠る。
それが「よい眠り」です。
「眠気」とは脳と体が眠りを求めているサインです。
眠気に誘われて眠った場合、脳と体はいっせいに休息と回復のための活動に入ります。
「よく眠った」という実感は、この休息と回復の活動が十分に行われた結果として感じる感覚なのです。
よって、「よく眠る」ためには眠気が起こる必要があることになります。
では、夜寝る時間になって眠気が起こるためには何が必要なのでしょう。
目次
1. 眠りを誘うもの
人が眠くなる理由は主に
・疲れ
・時間
の2つです。
1.1 疲れ
疲れて眠くなる(睡眠負債)
人が起きて活動していると、脳と体に疲労物質が溜まっていきます。
その疲労物質がある一定以上たまると、脳が疲労物質に対応するため眠るモードに入ろうとして眠気を感じ始めます。
眠気を誘う、そういった疲労物質が、脳と体内に溜まった状態のことを「睡眠負債」と呼びます。
人間は、ただ起きているだけでも疲れが溜まるものです。
楽しいことをしていても、つまらない時間を過ごしても、疲れは溜まります。
そうやって溜まった疲労物質、つまり「睡眠負債」が眠気を呼ぶ一因となります。
経験のある方もいると思いますが、日中でも非常に疲れた場合、人は眠くなります。
これは短時間で多くの「睡眠負債」を抱えてしまった影響です。
1.2 時間
時間が来て眠くなる(生体リズム)
全ての生物は、体内時計を持っていると言われます。
もちろん人間にも生物時計は備わっており、約24時間の周期を毎日刻んでいます。
こういった生物時計により刻まれる24時間の周期を「サーカディアンリズム」と言います。
人間を含む哺乳類の場合、脳内の視交叉上核と呼ばれる部位が体内時計の本体となり、
人の体はこの視交叉上核によるサーカディアンリズムに合わせて周期的に睡眠やホルモン分泌などが行われます。
睡眠に関して言えば、人間は目が覚めた時刻から約15~16時間後に眠気が起こり始めるようになっています。
2. 2プロセスモデル
人が眠くなる2つの理由それぞれの影響を合わせて、眠気の強さを説明した「2プロセスモデル」と呼ばれるものがあります。
・人間は、活動の結果として体内に溜まる「睡眠負債」の量がある上限の量に達すると、それを処理するために眠りに入る。
・眠っている間に「睡眠負債」が処理されてその量が減ってある下限を下回ると、また起きて活動できる状態に戻る。
このように、単純に「睡眠負債」の上限・下限が睡眠と覚醒につながるという考え方をモデル化したものを「プロセスS」と表現します。
その一方、睡眠と覚醒につながる「睡眠負債」の上限・下限が生体リズムに合わせて変動するという考え方をモデル化したものを「プロセスC」と表現します。
この「プロセスS」と「プロセスC」を合わせて睡眠と覚醒のリズムを考えるモデル「2プロセスモデル」と言います。
脳と体内に溜まっていく「睡眠負債」と、変動するその上限・下限によって睡眠と覚醒のリズムが形作られるという考え方です。
3. リズムが重要
この2つの主な理由の内、重要なのは時間が来て眠くなる理由(生体リズム)の方です。
疲れ、つまり「睡眠負債」の量は日によって違います。
また、毎日起きていられないほど疲れていては、回復が追いつかずに体調を壊すことになります。
当たり前の話ですが、毎日に規則正しく眠るためには、文字通り睡眠のリズムが重要なわけです。
ここで重要なことは、生体リズムがズレて眠る時間がズレたとしても起きる時刻はズラせないということです。
寝るのが遅くなったから、起きる時刻も遅らせる。
寝不足になったから、それが解消するまで眠る。
これができるなら、不眠で悩む人はいなくなります。
しかし、ほとんどの人は寝るのが遅くなっても起きる時刻は変えられません。
寝不足で頭や体が辛くても、日中の仕事や勉強を止めて眠ることはできません。
それゆえ、不眠に悩む人は絶えません。
その数はむしろ増えつつあります。
眠れないからといって、睡眠導入剤やお酒を使って寝ようとする人もいますが、根本の生体リズムがズレたままでは、「よく眠れない」生活は続くことになります。
寝不足で辛いから早く寝ようとして、いつもより早く布団に入ってもなかなか眠れなかったという経験はないでしょうか。
眠れない原因が生体リズムのズレだとすれば、そのズレを戻さずにいつもより早く寝ようとしても脳は眠り始めません。
睡眠とは生理現象です。
直接、意識的に行える行動ではありません。
よく眠るためには、日常生活に適した生体リズムを維持することが重要なのです。
3.1 サーカディアンリズム:基準時計
本来、人間は環境に合った約24時間周期の生体リズムで活動するようにできています。
血圧・心拍数・体温・ホルモン分泌など、体内の活動は全て24時間の周期のリズムでその活動の度合いが変動します。
この約24時間周期の生体リズムのことを「サーカディアンリズム」と言います。
この「サーカディアンリズム」の大元は脳内にある視交叉上核によって作り出されています。
視交叉上核は、いわば基準となる親時計であり、この親時計に合わせる形で他の器官がそれぞれの活動のリズムを維持しています。
3.2 睡眠覚醒リズム
視交叉上核の親時計に合わせて、一日周期で繰り返される生体リズムの代表は睡眠覚醒リズムです。
ここで大事なことは、視交叉上核自体が睡眠と覚醒のリズムを作り出しているわけではないということです。
視交叉上核は全身の親時計ではありますが、あくまで一日の長さ、または昼と夜の移り変わりを脳と体の各器官に伝えるものであり、睡眠と覚醒を受け持つ器官は別にあります。
その睡眠覚醒の切り替えを受け持つ器官とは、間脳の一部である視床下部です。
視床下部の前部(視索前野)は睡眠を司る「眠らせる脳」であり、視床下部の後ろ部は覚醒を司る「起こす脳」となります。
人間は、この視床下部が親時計の視交叉上核と同調することで、1日周期の睡眠覚醒リズムが作り出されています。
3.3 セロトニンの重要性
生体リズムの大元となる親時計が周りの環境に合わせて正しく24時間のリズムを刻んでいても、問題が起こることがあります。
脳や体で様々な役割を担うそれぞれの器官が、親時計を基に適切なタイミングで働いていないと社会的生活に適した生体リズムを維持することができません。
睡眠と覚醒の実行の役目を受け持つ視床下部は、視交叉上核と同調して睡眠と覚醒のモードを切り替えています。
しかし、この視床下部が視交叉上核とうまく連動できていないと、睡眠覚醒のリズムがサーカディアンリズムからズレた状態となり、不眠の症状として現れてきます。
この、視床下部と視交叉上核との同調を受け持つ重要な役割を担うのが、神経伝達物質であるセロトニンです。