年を重ねるごとに眠るのが苦手になる。
ちゃんと寝ているのに疲れが溜まる。
そんな風に感じていませんか。
最近どうも寝つきが悪い。
夜中に目が覚めてなかなかしっかり眠れない。
眠りが浅くてどうも寝た気がしない。
実際、そういう人が増えています。厚生労働省や様々な会社による調査によれば、「男性の37.7%、女性の43.0%が睡眠の質に満足していない (平成25年 国民健康・栄養調査)」となっており、自分の睡眠に不満を持つ人が年々増えてきているそうです。
夜しっかりと眠れないことが続くと疲れが溜まってしまい、イライラして余計眠れなくなってきますし、日中の仕事にも影響が出ます。
夜ぐっすりと眠りたい。そのために何かいい方法はないか。睡眠薬は大げさなので、もっと気軽にできる何か。
そんな風に思っている方は、グリシンを試してみてはいかがでしょうか。
グリシンには寝つきをよくして睡眠の質を上げる安眠効果があります。
グリシンは体内にも豊富に存在する非常に身近なものです。そのグリシンに安眠効果があることが分かり、睡眠の質をよくするサプリメントとして「再登場」してきました。
ここでは、グリシンの効き目とその理由を紹介します。
目次
1. グリシンとは何か
グリシンとはアミノ酸の一種です。20種類あるアミノ酸のうちでもっとも単純な構造をしています。
アミノ酸には、人間が体内で作り出せない必須アミノ酸と体内で作り出せる非必須アミノ酸がありますが、グリシンは非必須アミノ酸であり、体内に豊富に存在します。
2005年に味の素(株)が「機能性食品」として「グリナ」を発売してから一般に「グリシン」という名前が知られるようになりました。
今でこそグリシンといえば、安眠のためのサプリメントとして知られていますが、グリシンはもともと「食品添加物」としてさまざまな食品に使われており、ごくありふれたものです。
細菌の増殖を抑える作用があり、匂いも少なく甘みがあることから、さまざまな食品にグリシンが添加されています。 店頭販売されているコンビニの弁当やおにぎりでも成分表示「グリシン」の記述が見られます。
自分でつくり出せて体内にも豊富に存在するありふれたアミノ酸。 口にしても特に害はなく、広く添加物とてして使われている。
そんなグリシンは「毒にも薬にもならない」無害な物質として知られていました。
しかし、ある偶然からその「毒にも薬にもならない」グリシンに意外な効能があることが発見されます。
2. グリシンの効能
2002年、味の素(株)でグリシンとは別のアミノ酸の効果を確認するための社内試験が行われていました。
その期間中、試験の参加者として毎日アミノ酸を摂取していた研究員が、家族から寝ている間のいびきがなくなったことを知らされます。実はその頃、本人も朝起きた時の調子の良さが今までと違うことを感じていたため、試験で毎日飲んでいるアミノ酸と何か関係があると考えました。
試験終了後、研究員は会社に問い合わせ、試験期間中に自分が飲んでいたアミノ酸がグリシンだったことを知ります。その研究員が飲んでいたアミノ酸は試験対象のアミノ酸ではなく、対照食として渡されていたグリシンでした。
対照食とは、特定の成分の働きを調べるとき用いられる、調べたい成分が入っていなくて効果がないもののことです。
この試験では「毒にも薬にもならない」グリシンが対照食として使われていました。
研究員は、試験中の経験からグリシンには眠りの質をよくする効果があると考え、因果関係を調べてみることにしました。
ボランティアの協力を得て調べた結果、寝る前にグリシンを摂取すると次のような効果があることがわかりました。
・実際に眠るまでの時間が短くなる
・夜中に目が覚めることが減る
・自分の睡眠に対する主観的な満足度が向上する
つまり、グリシンには「眠りの質を高める」効果があるということです。
では、なぜグリシンを摂取して寝るとこのような効果が現れるのでしょうか。
ポイントは「深部体温」です。
2.1 深部体温の低下
人が眠るとき、体の中心部の温度(直腸内温度)が低下することが知られています。
この体中心部の温度のことを深部体温といいます。
味の素(株) 「いきいき健康研究所」より図引用
http://report.ajinomoto-kenko.com/suimin/kaiketsu.html
深部体温の低下が急であればあるほど速やかに眠ることができることもわかっています。
ラットを使った実験により、グリシンを一定の量以上に摂取すると通常より急な速さで深部体温が低下することがわかりました。グリシンを摂取した場合は通常より皮膚の血流が増え、それに伴い深部体温が低下することが確認されています。
味の素(株) 「いきいき健康研究所」より図引用
http://report.ajinomoto-kenko.com/suimin/kaiketsu.html
この深部体温の低下は、入眠から覚醒まで続いています。これは言い換えると、より深い眠りが朝まで続いているということです。同じことが人間でも起こっていると考えられています。
よく夜中に目が覚めて困っているという方がいますが、睡眠の途中で目が覚めてしまうタイミングには特徴があり、睡眠のレベルが浅くなった時点で一番目を覚ましやすくなります。
深部体温がより低くて眠りが深ければ、睡眠レベルが浅くなる時間帯でも目を覚ますことなく眠り続けることができます。寝る前にグリシンを飲むと、夜中に目を覚ますことが減るのはこのような理由からです。
このように、寝る前にグリシンを摂取することで安眠効果が得られることが実験で確かめられました。
しかし、なぜグリシンによって急な深部体温の低下が促進されるのでしょうか。
体内でつくられたものであれ、外部から摂取したものであれ、グリシンの化学的・生理的な影響に変わりはないはずです。
その鍵はグリシンの一時的な血中濃度の上昇だと考えられます。
3. グリシンが深部体温の低下を促進する条件
2013年、グリシンが深部体温の低下を促進するメカニズムを解明するため、マウスを使った実験が行われました。
この実験により次のことが分かっています。
深部体温の低下が起る際
・脳内のグリシン濃度が上昇して興奮系の神経伝達物質として作用している
・体内時計の中枢に働きかけ、その延長で体の表面血流が増加する
神経伝達物質とは、文字通り神経の情報を伝えるために使われる物質です。
神経は大きく興奮系と抑制系に分かれており、グリシンはその両方で伝達物質として使われます。実験では、深部体温の低下を促進される際の脳内におけるグリシン濃度は、興奮系として作用するには十分だが抑制系として作用するには足りない濃度であることが分かっています。
脳内で増えたグリシンが体内時計中枢を経由して体温調整を行う部位に働きかけて抹消血管の拡張が起こります。その結果、手足などの血流が増え、からだ内部の熱が放出されて深部体温の低下につながるわけです。
ここで重要なことは、グリシンを飲んだあと脳内のグリシン濃度が上昇しているということです。
通常、血液中のグリシンは脳内に入ることができないとされています。
脳には血液中の物質が無制御に入り込んでくることを防ぐために「血液脳関門」という仕組みが備わっています。脳に入ってくる物質は血管で選別されるようになっているのです。
グリシンは血液脳関門を通過できないアミノ酸であることがわかっています。
通常、脳で使われる分のグリシンは脳内で作られ、食事などで血液中のグリシンの濃度が上がったとしても、その分が脳に入り込むことはありません。脳内でのグリシンの量は一定に保たれるようになっているのです。
しかし実験ではグリシンを飲んだ後で脳内のグリシン濃度の上昇が確認されています。
これはなぜでしょうか。
実は、脳内でグリシンの量が増加する正確な理由はまだハッキリとわかってはいません。
しかし、血液中のグリシンが血液脳関門を通過しないで脳内に到達する抜け道があることがわかっています。
グリシンはアミノ酸の中でもっとも単純な構造をしています。いわゆる低分子と呼ばれる構造です。このような低分子は血管の壁を形作る細胞と細胞の間をすり抜けることがあることがわかっています。
つまり、グリシンは血液脳関門を通過はできないが、その横をすり抜けて脳内に入ることがあるわけです。
→「血液脳関門」
https://www.emf-portal.org/ja/cms/page/effects-radio-frequency-blood-brain-barrier
グリシンを一定量以上飲んで血液中の濃度が一時的に上昇すると、このように血管の壁をすり抜けて脳内に入り込む割合が増えるのではないかと考えられます。この増えた分が脳内において興奮系の伝達物質として作用する量に達すると深部体温の低下が促進されるようになるのではないかということです。
確かなこととして言えるのは、一定の量以上のグリシンを摂取すると深部体温の低下が促進されるということです。
ここから、グリシンの用量用法について指針が得られます。
それは、グリシンで安眠効果を得ようとすればある程度以上の量を一度に摂取する必要があるということです。
一定量以上のグリシンを飲むことで一時的にグリシンの血中濃度が高まり深部体温の低下促進につながると考えられます。
実際、グリシンの安眠効果に気づいた研究員は
「試験の対象であるアミノ酸を朝と晩の2回飲むべきところをついつい飲み忘れてしまい、夜にまとめて飲んでいました」
味の素(株) 「いきいき健康研究所」より引用
http://report.ajinomoto-kenko.com/suimin/glycine.html
この「夜にまとめて飲んでいた」という事実が重要で、ちゃんと朝と晩の2回グリシンを飲んでいたらこの効果には気づかなかったものと思われます。
つまり、グリシンを一度に一定量以上飲んでいたからこそ安眠効果が得られたと考えられるわけです。
味の素(株)による実験によれば、その量は3000mg以上とされています。
まとめて言いますと、
グリシンを一度に3000mg以上飲むことにより、脳内のグリシン濃度が上昇して体温調整を行う部位に働きかけ抹消血管の拡張が起こり、深部体温の急な低下につながる。その結果、寝つきもよくなり、眠りも深くなって夜中に目が覚めることも減るようになり、睡眠の質がよくなる。
ということになります。
4. 用量用法
3000mgを寝る30分前に摂取する。
グリシンのみで安眠効果を得ようとすれば、3000mg以上を飲む必要があるとされています。
ここで注意が必要なのは、3000mg以上ということです。
睡眠改善用の機能性食品として市販されているグリシンは、ほとんど一回3000mgの用量となっています。しかし、グリシンを利用している方の声を調べてみると、効き目がないという意見が少なくありません。
そんな中で、敢えて3000mg以上のグリシンを飲んで睡眠の質が向上したという声がいくつかあります。おそらく、人によって深部体温の低下が促進されるグリシンの量は異なるのだと考えられます。
感覚的にですが、3000mg以上グリシンを飲まなければ、何の効果もないという人は結構いると思います。
そういう方は1回3000mgのグリシン2回分を一度に飲んで試してみるといいかもしれません。
ちなみに、3000mgとは写真の軽量スプーンですりきり一杯の量です。意外に少ないと感じられるかもしれません。
グリシンは1度に8kgほど飲まない限り健康に重大な害をもたらすことはなく、3000~6000mgを飲むぐらいではほとんど害はありません。
一回3000mgの量を飲んで何も効き目を感じられない場合は、少し多めに飲んでみて自分に合う量を確かめてみられるといいと思います。
逆に、3000mgより少ない量でも睡眠の改善効果を得られる方もいらっしゃるでしょう。
特に、他の成分と併せて摂取する場合では、グリシンが効果を発揮する量が少なくてすむことも考えられますので、あまり厳密に3000mgという量にこだわる必要はないと思います。
5. 副作用・注意点
グリシンに特筆すべき副作用や問題点はありません。
ただし、20gや30gとあまり大量に飲むと下痢や胃腸の不調を招くことがあります。やはり飲みすぎには注意しましょう。
ちなみに、私はグリシンを飲み始めてから通事がよくなったと感じています。正確な因果関係は分かりませんが、寝る前にグリシンを飲み始めてからの変化ですので、おそらくグリシン効能だと考えています。
6. まとめ
グリシンは、ご自身の眠りの質に不満がある方は試してみる価値のあるサプリメントです。
副作用の心配はまずありませんので、自分の睡眠を改善するため、最初に試すものとしてはよい選択です。
ただし、過度な期待はしないほうがいいです。
グリシンの効能は、あくまで睡眠の質をよくするというものです。
グリシン自体には直接睡眠を促進する効果はありません。
もちろんグリシンを飲んだ後で眠気を感じることはあります。しかし、それは深部体温の急な低下の影響によるものであり、他の睡眠導入剤などによる眠気と比べればかなり弱いものです。
そもそも眠れない人が症状を改善しようとグリシンを摂っても、ほとんど効果はないでしょう。精神的疾患やストレス、または生活リズムの乱れなどにより眠るべき時刻に眠れないような人にとってはあまり有益なものではありません。
それを踏まえた上で、自分の睡眠の質をよくするために用いようというのであれば、安全面から考えてもグリシンはお薦めです。
ただし、はっきりと自覚できるような効き目でもないため、グリシンで睡眠を改善しようとするなら長期戦を考えた方がよいです。
私自身、寝る前にグリシンを飲んでいますが、確かに夜中に目が覚めることがなくなりいびきも減りました。しかし、それも気がついたらそうなっていたということであり、他の薬のように飲んですぐ効き目がわかるというものではありません。
裏を返せば、それだけ安全なサプリメントであるとも言えます。
初めに述べましたが、自分の睡眠に対して不満のある人が増えています。 いい眠りを求める人が増えるに従い、最近ではグリシンのサプリメントも様々な商品が出てきています。
ご自身の眠りの質を良くしたいという方は、自分に合うと思う商品を選んで試されてみてはいかがでしょうか。